函館
9月の夏と秋の境目のころ、函館に行った。佐藤泰志の本と映画に影響されての旅だった。函館はよく晴れて、海風が強く吹いていた。空はどこまでも青く、海はさらに青かった。街には人影がなく、地震のせいで観光客が来ないのだ、とタクシーの運転手が教えてくれた。
函館は海と山に囲まれた街である。北に山、東西と南に海があり、南の海辺には砦のように函館山が構えている。海辺には堤防のようなものはなく、道と同じ高さで海が見える。高い建物も少ないので、市内のどこからでも函館山が見える。遮るもののない空はどこまでも広く、海とつながってひとつになるところまでを見通すことができる。建物はなぜだかやたらと四角く重厚で、どこか厳粛な雰囲気がある。街は狭く、少し移動すればすぐに海か山に行き当たる。どこまでも開けている開放感と、どこにも行けない閉塞感が同居している。だから、この街を歩いていると、諦めながら微笑みを浮かべるような、そんな気分になる。
少しだけど夜遊びもした。ホテルから路面電車で駅前に出て、「杉の子」という老舗のバーに行った。映画「きみの鳥はうたえる」で主人公たちが飲みに行くシーンで使われていたお店だ。洋酒の品揃えが素晴らしく、値段も安いものは本当に安かった。函館の若者はここで洋酒の味を覚えるのだと常連さんが話していた。何を飲んだかはよく覚えていないが、最後に「海炭市叙景」という佐藤泰志の本の名前のカクテルを飲んだことだけは覚えている。スモーキーブルーの色あいがあの本とぴったりだと思った。
何となくブルージーな函館はこんな感じ。