bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

青春100キロ

渋谷アップリンク

週の頭に行けるかどうかもわからないままチケット抑えて、何日か気合で仕事して、なんとか金曜に間に合わせた。
 
※以下、ネタバレ注意です
 
 
 
 
 
 
描かれるのは、対象的な2つの青春。
AVクイーン(言い方が古いな)上原亜依と、上原亜依に中出ししたくてたまらない一般男性、ケイくん。
上原亜依の引退作を撮るにあたって、ケイくんには「100キロ走って会いに行く」ことが要求される。
達成できれば憧れの亜依ちゃんに中出し、失敗したら何もなし。
中出しのためにケイくんはひたすら走る。
一方、引退を控えた亜依ちゃんも、色々と高ぶる思いがあるようで…
みたいなお話。
 
ケイくんと平野監督のコンビが素晴らしい。
素晴らしく何も考えてない。
普通さあ、100キロ走ってたらさあ、内省的になるじゃん。
(俺はなぜ走ってるんだろう、これはいったい何なんだろう)みたいなこと考えるじゃん。
ケイくん、そういうの一切ないんだ。
片足しびれて動かなくなってフラフラで夜の山道歩きながら、「亜依ちゃんとやりたいッス、中出ししたいッスね」ってニヤつきながら言うんだよ。
愛とかじゃない、恋とかでもないんだよ。
「大好きな女の子に会いたい」なんてロマンチックな話じゃないんだ、「大好きなAV女優に中出ししたい」なんだよ。
最初から最後まで、ケイくんの動機はそれ以上でも以下でもないんだ。
バタアシ金魚」のカオル君みたいに(カオル君のは恋心だけどさ)、シンプルな衝動だけで突っ走るんだ。
何だコイツ、頭おかしいけどサイコーだな、完全に青春だな、って感じ。
いい素人見つけたねー。
 
で、自転車で伴走する平野監督は、同じくなんにも考えてない。
「晴れた日に自転車漕ぐの気持ちいいなあ」徹頭徹尾これしか頭にない。
普通さあ、ヘロヘロになって走ってる若者みたら、感情移入しちゃうと思うんだ。
でもそういうの、まるで無いの。興味ないの。
テキトーなことばっか言いながら自転車漕いでるタチの悪いおっさん。
でも、ケイくんもバカだから、バカ二人でずーっとバカ話続けて、すげーいいコンビになってる。
 
出演者としての平野監督はテキトーなバカな大人でしかないのだけれど、監督・編集者としての平野監督は、やっぱりすごい。
そう思わされるのが、上原亜依を写した映像の使い方。
上原亜依と「本中」のプロデューサー、それに監督。
彼らによる、上原亜依の引退作「100人中出し」のメイキング映像が、走るケイくんの合間に挟まれる。
上原亜依は、「そう簡単には内面なんて見せないぞ」って感じで、仕事用の仮面を外そうとしない。
スタッフは、競馬でいうところの「かかってる」状態。
思い入れが強すぎて、過剰になってる。
上原亜依にも、集まったファンにも寄り添えてない。
上原亜依を前にして、口も聞けずに俯いてる素人に、「好きなんだろ!言葉で伝えろよ!」と怒鳴る監督。
そんなことしなくてもさ、モジモジしてる映像みてればファンの愛情は伝わるよ。
 
撮影途中、車の中で上原亜依とスタッフの意見がぶつかる。
上原亜依は泣きながら、「せっかく集まってくれたファンをがっかりさせたくない、みんなに良かったって思って帰ってほしい」という。
出来る限りたくさんのファンとセックスしながら、「私の目を見て、私を忘れないで」と言い続ける。
「愛されたくてAV女優になった」という言葉が本心なら、忘れないで、っていうのも本心なんだろうね。
 
ラスト、100キロを完走したケイくんはAV女優・上原亜依の最後のセックスの相手となる。
ケイくんは終始笑顔でセックスをし、上原亜依に中出しをキメる。
最後のセックスが終り、上原亜依は泣きながら言う。
「最後の人がケイくんでよかった。彼がいちばんちゃんと私の目を見てくれた」と。
ケイくんの感想は?
彼は変わらぬ笑顔で言うだけだ、「最高でした!」と。
そこには、感傷も切なさも寂しさもない。
「やったぞ、憧れのAV女優に中出しできたぞ!」その喜びしかないのだ。
 
なんて対象的な二人だろう。
厚い仮面を被った、愛されたがりのAVクイーン。
仮面もなければセンチメンタルの欠片もない、やりたいだけのマラソンランナー。
二人の思いのスレ違い。
悩める青春と、悩まない青春。
たまんねーよなあ、こんなの。
 
劇中歌と主題歌には、元?AV監督のゴールドマンの曲が流れる。
エレキギターの向こうの少し稚拙な歌声、あれを聴いてるとなんだかやけにセンチメンタルな気分になる。
バカな映画だったな、楽しかったな、男子だったな、そう思いながら、なんでか少し、薄ら寂しい気持ちになるんだ。
何でなんだろうな。
 
この映画、いろんな人に見てほしい。
そんでいろんな感想を聞きたい。
GWに追加上映やるらしいので、興味を持った人は、ぜひ足を運んでみてください。
基本、楽しいバカ話だから。
笑えるから。
損はしないと思うから。
 
 
※追記
その後、もうちょっと突っ込んだ感想を書いたので、よろしければこちらもどうぞ。