bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

いつもよりすこし高級な酒

あなたは酒を飲むひとだろうか。
俺は酒を飲む。
飲む、といってもそこには様々な種類の飲み方がある。
水割りかロックか、という話ではない。
ここでいう種類とは、頻度と、量と、質である。
普段の俺であれば、月に一度か二度、安くて上手いもつ焼き屋で、ホッピーを二本ぱかし飲む、というのが主流である。
だが今月の俺は違う。
毎週飲んでいる。
飲むのは決まって金曜である。
高い(といっても客単価7000円くらい)店で飲む。
飲むのは主に日本酒である。
銘柄はよく分からぬ。
俺は日本酒には詳しくない。
若いころの食道楽のおかげで色んな銘酒を飲んでいるはずなのだが、何分アルコール耐性が無いので、銘柄なんぞ覚えちゃいないのだ。
仕方がないから詳しそうな店員さんに頼む。
すいません、この料理に合うお酒はありますか?
この季節にお勧めのお酒はありますか?
僕、○○出身なんですけど、そのあたりのお酒はありますか?
まあだいたいこんな感じである。
酒場では半可通を気取ってはいけない。
知らぬものは知らぬのだから、謙虚になるのが良い。
出てきた日本酒をカパカパと空ける。
一時間もすればヘベレケである。
もはや酒の味などわからぬが、それでも飲む。
それで良いのである。
辛いことを忘れるために飲んでいるのだから、そうでなくてはいけない。
何がなんだかわからなくなる一歩手前で、おもむろに家路に着く。
どこをどうやって帰ってきたのかわからぬまま、いつのまにか己の部屋にいる。
すでに記憶はとぎれとぎれであるが、翌朝に飲むための水だけはしっかり抱えている。
布団に転がり、服を脱いだか脱がないかのうちに、もう意識を失っている。
そうやってやっと、辛く重苦しい一週間を終えるのだ。

何がどうなったか分からぬまま目を覚ませば土曜であり、二日酔いの体を癒しつつ日曜を迎えれば、月曜はすぐそこである。
月曜の朝、脱ぎ捨てられたままのジャケットとパンツを拾う。
ノソノソとヨレヨレと家を出て、バスを待つ。
冬の冷気に身をすくめる。
ふとズボンを見れば、シミがまだらに広がっている。
何をこぼしたのだろう。
記憶をたどっても全ては闇の中である。
思い出したいことは思い出せず、忘れたいことは忘れられない。
忘れられないうちは、また酒を飲むのであろう。
世の中は、なかなか難儀に出来ている。