bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

劇場版テレクラキャノンボール

正月特番のナンバーワンは、ぶっちぎりで「芸人キャノンボール」だった。
余勢をかって、元ネタの「劇場版テレクラキャノンボール」を見た。
キラキラしててかっこよくて切なくて、でもああはなりたくなくて、でもああなりたいと思わせる、そういう世界が広がっていた。

テレキャノがなんでかっこいいかといったら、ひとつにはそういう撮り方をしているからだ。
映像、編集、音楽、テロップ。
みんなきちんとかっこよく出来ている。
出演者のAV監督たちもそうだ。
外見からして気持ち悪い人間はひとりもいない。
こういう、「見せ方」のことって当たり前に思われるかもしれないけれど、ほんとに大切なことだと思うので、きちんと書いておきたい。
最近、「見せ方」の力ってすげえなってことを考えてる。
企画や脚本、「起こっていること」の力もすごいんだけど、同じかそれ以上に「見せ方」の力ってすごい。
作り手側の人はここらへんにすごく自覚的だと思うんだけど、視聴者側はあんまり思い至らない。
テレキャノ、ダメな人が撮ったら、ただの汚いクズどもがヨレヨレしてる話になっちゃう。
それでは好事家の興味しか引けない。
女性は見に来ないし、地上波でリスペクトはされない。

もうひとつ、こっちのほうが本質的だと思うけど、彼らがかっこよく見えるのは、彼らがクズだからだ。
そのことに自覚的で、自分たちのクズさをきちんと引き受けていて、それが刹那的な輝きに繋がっている。
自分たちがNoFutureのクズだってことを理解して、けどそこからしか見えない素晴らしい景色があるんだって信じて、それをカメラに映すために必死になってる。
もちろんこれは俺の言葉だ。
バクシーシ山下監督ならたぶん、クズ/まともの二項対立図式そのものを否定するだろう。
カンパニー松尾監督ならたぶん、みんな平等にクズだしみんな平等に美しいんだよ、とか言うのかな。
ビーバップみのる監督は「食った人生か食わなかった人生なら、俺は食った人生を選びたいんスよ」って言ってた。
言葉は違えど表現してるのは多分同じことだと思う。
曰く、ロックンロール。

ここまでホメといてなんなんだけど、手放しで大好きなのかというと、そうも言いきれない。
実は見てるあいだずーっと、頭の半分はめっちゃ興奮してて、もう半分はモヤモヤしてた。

モヤモヤの理由は、よく言われるような、女性が粗末にされているから、ではない。
粗末にされてるのは男性も女性も同じだ。
そこは平等で、フェアだと思う。
そもそもテレキャノ時空では、粗末にされていないものなんて存在しない。
すべてが平等に「素材」だ。
世界すべてが面白くなるための素材。
それは自分自身の感情であっても同じ。
それが「監督」という生き物の世界観だ。

俺がモヤモヤしてたのは、その世界観を共有しきれないからだ。

はっきり言うと、俺にとって「セックス」って素材扱いしていいものではないのだ。
俺は、「大切なものは、大切にあつかわないと大切じゃなくなる」と思ってる。
宝物は宝物のように扱ってこそ宝物で、ゴミのように扱っていたらそれはゴミに成り下がってしまう。
そう思ってる。
俺はセックスを大切なものだと思いたい。
セックスをキーにして駆動される感情を大切にしたい。
そうじゃないと、セックスがつまらなくなる。
好きな人と抱き合ったときのあの感覚を大切にしたいし、なんていうか、そのときの気持ちを裏切りたくない。

AV監督はそうじゃない。
彼らは基本的に、セックスで感情を動かされたりしない。
AV監督、というかハマジム関連の監督たちはむしろ、セックスをキーにして女優の感情を動かすことを生業にしている。
彼らはセックスに慣れている。
無感情でそれをこなせるくらいに。
自分の感情すらも、女優の感情を動かすための道具として使うことだってできるほどに。
俺はそんなふうにはなりたくない。

だから、主演女優と寝なかった、嵐山みちる監督のエピソードは感情移入して見てた。
あれが恋愛関係なのか、単体監督としての矜持なのか、それとも両方なのか。
それはあの映画ではわからない。
ただ、それが「特別なもの」で、「大切なもの」なのは伝わってきた。

で、繰り返しになるけど、もうこの記事って構成とかぐちゃぐちゃだけど、それでも書くと、半分モヤモヤしてて、もう半分はテンションあがりまくってた。
ロマンチック・ラブ・シンドロームな俺はモヤモヤしてて、ロックンロールな俺はとにかく興奮してた。
ブラッドサースティ・ブッチャーズのライブで「2月」を聞いたときと同じくらい、胸をかきむしられてた。

長々書いたけど、結局、俺はこの映画をシンプルには評価できない。
とにかく感情を揺さぶられた。
興奮と嫌悪感、共感と反発、憧れと軽蔑。

よくわからない状態になっているので、この状態のまま、「劇場版501」も見に行こうと思う。
もっとぐちゃぐちゃになれるかな。