bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

よく晴れた東松戸のホームにて

いま東松戸にいる。駅のホームで寒風に吹きさらされている。頭上には雲ひとつない青空が広がり、冬の太陽が短い昼間に全力を注いでいる。日差しが当たる頭と背中は暑いくらいで、それ以外の部分はキンキンに冷えている。一部分だけアツアツで、それ以外はキンキンで、ホームに並んでる自販機たちにシンパシーを感じている。

 

東松戸にいるのだけれど、別に東松戸に用があるわけではなく、成田から外国へ出張に行く恋人のお見送りに来ているのである。東松戸で待ち合わせて成田空港行きのアクセス特急に乗る手はずになっている、のだけれど、肝心の恋人はいろいろあって遅延が生じているらしく、仕方ないのでひとりホームで乗るはずだった特急列車を見送っているのだった。

 

キンキンでアツアツの状態でペットボトルのお茶を手にホームに立ち何本も電車を見送っていると、本格的に自動販売機の気持ちになってくる。東松戸駅改札内ダーマ神殿があったら自販機(冷温兼用)に転職できる気がする。僕が自販機になっていたら、遅れてきた恋人はどう思うだろうか。温かい飲み物と冷たい飲み物、どちらのボタンを押すだろうか。僕は待たされた腹いせに温かいいろはすみかんをガコンと落とす。怒ってるの…?と彼女は言うだろう。これからしばらく外国に行くのに、そんな揉め方はしたくない。和解のしるしに彼女の好きな温かいお汁粉の缶でも落としてみよう。彼女はそれを握りしめて成田へ向かう電車に乗り込む。自販機の僕はホームからそれを見送る。お汁粉の缶は冷え性の彼女の手を柔らかく温めるだろうか。しばし遠くへ向かう彼女のために、ありったけの思いをこめてあっためた、とっておきのお汁粉。帰ってくるまで冷めないように、彼女の手が冷たくならないように。手をつなげる距離に帰ってくるまで、僕のかわりに指先を温めてくれるように。

 

いってらっしゃい、気をつけて。

無事の帰りを待ってるからね。