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bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

恋人を待っている

遮光カーテンのおかげでいつでも薄暗い部屋の中。隣に眠るひとを起こさぬように、胸に乗せられた腕をそっと持ち上げ、できるだけ滑らかにベッドから抜け出す。洗面所で時計を確認し、もう11時を回っていることに少し驚く。まだ早朝だと思っていた、お昼ごはんどうしようかな、考えながら財布と携帯を掴んで外に出る。

むわっとした熱気を予想していたら、ひんやりした風に吹かれて面食らう。もう夏も終わりなのかな。そうだよな、九月だもんな。近所のスーパーで適当に買い物をする。夏野菜と肉とあと何かなあ、みたいなことを考えながら、練り梅、鯖缶、オクラ、トマト、それからピノとお茶をカゴにいれる。最初の4つはカレーの材料。あとの2つはなんとなく。肉を買うつもりで肉を買わなかった。最近はこういう買い物が多くて楽しい。

そっと玄関を開けて静かに家に入る。リビングのドアを少し開けて様子を伺う。どうやらまだ眠ってるみたいだ。キッチンに戻り、食材をやっつける。きょうは南インド風のカレーにしよう。玉ねぎをまるごと一個みじん切りに。にんにく一欠けもみじん切り。生姜は日持ちしないのでチューブを使っている。オクラは塩ずりしてヘタをとる。トマトは大きめの角切り。切るものを切ったら、油にスパイスの香りを移す。カシアひと欠け、ベイリーフ2枚、カルダモン4つ、クローブ3つ、クミンシードは適当に。カルダモンが膨れ、クミンシードから泡が出なくなったら玉ねぎを投入。ほんのり狐色になるまで炒め、にんにくとしょうがを投入。香りがたったら鯖缶を汁ごと。きょうは月花を二缶使った。軽く崩しながら強火で炒め、水分を飛ばす。ここでオクラも投入。軽く炒めて、パウダースパイス。チリペッパー小さじ2、コリアンダーパウダー小さじ3、ターメリック小さじ1。この辺はフィーリングで適当に。全体に炒め、スパイスの香りがたったらココナッツミルクを400グラム。缶詰一つ丸々投入。それから練り梅を適当に。多いかな、と思うよりもう少し多めに入れるくらいで丁度いい。チューブのやつは酸味が弱いんだよね。フツフツと沸いてきたら最後にトマトを。崩れない程度に軽く煮込んだら、それで完成。鯖とオクラとトマトのカレー、南インド風。

カレー作りですっかり汗だくになったのでバッとシャワーを浴びてTシャツを着替える。まだ寝ているひとの顔をじっと眺める。いつまででも見ていられるな、と思う。目を覚ましたらなにを話そう。お腹が空いたね、と彼女は言うだろうか。寝てるあいだにカレーを作ったよ、夏が終わってしまいそうだから、夏野菜とココナッツミルクを使って、南インド風の、精いっぱい夏っぽいカレーにしてみたよ。そう答えたら喜んでくれるだろうか。夏っぽくしたかったからいつもより辛めにしたけれど、大丈夫かな。辛すぎて食べられない、なんてことがないといいけど。

早く起きないかなあ。でも寝顔もいいなあ。辛すぎたらどこにランチに行こうかな。散歩しながら開拓するのも楽しそうだな。

このひととなら、何をしたってどうしたって楽しそうで楽しいに決まってる。たぶんずっと楽しいに決まってる。きっとそうに決まってる。そういう予感がする。

僕は床に胡座をかいて、ベッドで眠る彼女の寝顔を眺めている。彼女が起きるのを待っている。恋人を待っている。