bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

わからない

食えず眠れず、で4日過ぎた。
意外と人間動けるもんだ。

彼女は家に帰ってくる。
同棲してるし、急に引っ越すわけにもいかないから当たり前なんだけど。
帰ってきて、仕事でこんなことがあった、という話をして、僕は笑ったりなだめたり。

あまりにも今まで通り過ぎるから、僕の体は変化を忘れて安心してしまう。
脳もかな。
何事もなかったような錯覚をする。
錯覚のなかで、錯覚のおかげで生きている。

我々の家は狭いから、布団はひとつしか敷けない。
いつものようにひとつの布団に並んで寝て、
いつものように抱きしめようとして、
彼女の体に拒絶のにおいの入り混じったこわばりを感じる。
いつもと違うこわばりに僕の体はパニックになる。
なんで、どうして、いつもと同じはずだろう?
体がふるえ、涙がこぼれる。
ごめんね、ごめんね、ごめんね。
彼女は心底つらそうに、謝罪のことばを繰り返す。

錯覚でもいい、彼女と語りあい、笑いあう毎日を続けていたい。
僕はそのうち抱きつくのをやめるのだろうか。
錯覚が壊れるのを恐れて、自分から何かすることがなくなるのだろうか。
それとも、抱きつくことを、拒絶されることを繰り返して、錯覚が完全に打ち破られるのを待つことになるのだろうか。

彼女はきょうも夜勤で、ひとりで過ごす眠れない夜は本当に長く、おまけにきょうはひどく寒くて、僕は毛布にくるまって震えながら朝を待った。
寒さにつよい僕ですらこんなに寒くて、寒がりの彼女は大丈夫なのかな、ちゃんと暖かい格好をしているかな、そんなことを考えていた。
朝になれば仕事に行かないといけない。
それどころではないのに、また社会人のふりをしなければいけない。
いまは社会なんてどうだっていいのにな。
でも彼女は仕事をがんばる人が好きだと言った。
だから、がんばらなきゃいけない。

窓を開けると、外は冷たい雨がふっていた。
こんな日に死ぬのはいやだなあ、と思った。
でもこんな日に生きているのもいやだった。何もしたくなかったけれど髭を剃り歯を磨いた。

僕は自分で何かを決められない。
流れのなかで戸惑っている。
ひたすらに困惑し、弱り、ぎりぎりのところに立っている。
どうなるのだろう。
どうすればいいのだろう。

こんな雨だから、どこかにずぶ濡れの捨て犬はいないかな。
いまならきっといい友達になれるのにな。