bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

暖かな冬の夜

朝からなんとなくどろんとしていた。何が、というわけではないけれど、なんだかはっきりしなかった。いつのまにかシャツを着て、いつのまにか靴紐を結んでいた。ぼうっとしたまま電車に乗り、ぼうっとしたまま働き、そのまんまで一日が終わっていった。

 

ところで仕事をしながらふと思いついたのだけれど、ムヒってもしかして無皮ってことなのだろうか。痒くて掻きむしって皮膚が全部めくれあがる、みたいな。痒い?心配するな、皮がなくなれば痒みもなにもなくなるだろう…?みたいな。そういうことなのかなあ。そうだったら怖いなあ。

 

仕事は終わっていないのだけれどまあいいかという気持ちになって会社を出る。暖かい空気。強い風。まるで春の嵐のような。コートとセーターを会社に置いてきたのは正解だった。まだ雨は降ってこない。少し歩きたくなって、駅とは反対の方向に足を向ける。ぬるい水のようなぼんやりと戸惑った空気の中をゆっくりと進む。イヤホンを耳に入れる。小沢健二の「春にして君を想う」。耳に吐息のかかるような、囁くような歌声。

 

やりたいようにやった一年だったな。ようやくはっきりしてきた頭でそんなことを思った。とにかく自分に素直に過ごした年だった。好きなことだけをやった。好きなものを見て、好きな音を聴いて、好きな服を着て、好きな人とだけ遊んだ。お気に入りのソファに座り、ヒゲを生やし、かわいいトートバッグを持って、毎日のようにカレーを作った。とにかく楽しく、心地よく過ごすことが重要だった。そうこうしているうちに、大切にしたいひとと出会い、大切にすることを許され、大切なひとになった。ふたりで過ごす時間が増えるにつれ、また好きなものが増えていった。なにしろ何をしていても楽しいし、どこに居ても心地よいのだ。

 

気がつけば、身の回りが好きで溢れている。モノも、ひとも、時間も。まだまだ楽しいことがたくさん待っている。耳元で小沢健二が歌ってる。君と行くよ、歳をとって、お腹もちょっと出たりしてね、そんなことは恐れないのだ、静かなタンゴのように。いまよりお腹が出るのはちょっと恐ろしいけれど、それ以外は概ねオザケンの言うとおり。春のような冬の夜、クリスマス色の暖かい街。まだ雨は振り出さない。もう数日で恋人が帰ってくる。会ったら何を話そうか、来年はどこに行こうか。あれやこれやを考えながら、家までの道をゆっくりと歩く。少し汗をかきながら、一歩ずつ、踏みしめるように歩いていく。