bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

湖畔にて

今月の頭、山中湖へ行った。

 

家の近所で車を借りる。車は青いコンパクトカー。運転手は友達、助手席には友達の彼女。僕と僕の彼女は後部座席。酸っぱい飴を舐めながら、ぎゅっとコンパクトに座る。中央道を富士吉田インターで降りて、吉田うどん。

 

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ほぼ弾力のない、ゴワゴワしたうどん。讃岐うどんとは違う、すいとんをそのまま麺の形にしたような、ダイレクトに粉を感じる麺。つるつる、ではなく、ガシガシと食べるうどん。全然美味しそうに聴こえないと思うけれど、これが美味しいのだ。上に乗ってるキャベツと馬肉もまた良い。富士吉田市は馬肉を食べる文化圏なのだ。じゃあ馬肉食おうぜ、というわけで精肉店へ馬肉を買いに行く。

 

大西肉店 本店

食べログ大西肉店 本店

 

国産の赤身をどっさり、それから中トロを焼肉用に切ってもらう。ついでに牛も適当に。そんでスーパー寄って、野菜や炭やなんやら買って、山中湖畔のコテージへ。

 

 
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湖からの眺めはだいたいこんな感じ。富士山は良い、やっぱデカいものはいい。ドカンと問答無用な感じがいい。富士山に問答を仕掛けてはいけない。何を問うても質量の塊で押しつぶされる。理屈より先に存在がある。存在はいい、ほんとにいい、存在するだけで存在は最高。

 

コテージの前でお定まりのムーブ。火をおこす。肉を焼く。道の駅で買ったフルーツを食べる。燻製を作る。酒を飲む。彼女の燻製の技術が音を立てて上達していって面白かった。技術の向上するさまは見ているだけでもワクワクするし、おまけに燻製は美味しいので、つまり最高だった。煮卵と明太子、それと梅干しが特によかった。チーズはスモークチーズだった。スモークチーズをスモークしたらどうなるんだろうね?と彼女に言ったら、知りたければいますぐスモークチーズをわたしのところに持ってきなさい、三十分で結果を見せてあげる、となんだか神のような答えが返ってきた。技術はすべて神の御業であり、技術を高めるとひとは簡単に神になる。

 

22時をすぎる頃には相当に寒くなっていた。標高1000メートルの本気を感じた。焚き火をしても身体の前面しか暖かくならない。ホットウイスキーを飲んでも身体の内側しか暖かくならない。身体の後ろ側が、つまりは尻が寒い。尻から寒さが広がっていく。ヘタレた僕らはコテージの中に避難した。ガスファンヒーターをつけ、布団に潜り込む。目を閉じるつもりはなかったけれど、それは時間の問題だった。

 

目が冷めたのは深夜三時のことだった。彼女も友達も友達の彼女もみんな暖かな部屋で眠っていた。トイレにいき、ふと思いたってそのままドアを開け、外に出た。キンと張りつめた冷気が頬を刺す。フリース一枚ではやはり寒い。けれど寒いのは嫌いじゃない。このキャンプ場には外灯がほとんどなくて、だから外はほんとうに真っ暗で、見上げると樹々の隙間から星空が見える。もっと広い星空が見たくて広場のほうに歩いていく。木の葉を踏む感触が心地よい。そのまましばらく歩いていくと、湖畔に出た。湖畔から湖の真ん中に向かって、長い桟橋が伸びている。揺れる桟橋を歩いて先端までいく。深夜の湖には動くものは何もなく、湖畔の建物から漏れる灯りと星空が山々をほのかに照らし、深いネイビーの夜空に黒黒とした富士山が浮かんでいる。揺れる桟橋に立ったまま、顔をぐいっと上げて夜空を見る。湖を渡る風が強く吹き付ける。寒さが全身の輪郭を規定する。星空が僕の大きさを縮減する。ずうっと上を見ているせいで平衡感覚が失われ、桟橋が揺れているのか自分が揺れているのかわからなくなる。怖くなって視線を下ろす。空よりも黒い湖面が見える。桟橋はまだ揺れている。

そのままそうやってそこにいて、動き出せたのは東の空が少し明るくなってきたころのことだった。

 

翌日は温泉に入り、お土産用に昨日のお肉屋さんで馬刺しを買って、それから洞窟を二軒ハシゴし、日も暮れた頃に牧場へいった。暗い牧場で馬や羊を愛で、ソフトクリームを食べ、それからチーズケーキを買った。

 

帰りは物凄い渋滞だった。あまりにも長い渋滞だったので、周囲の車と顔馴染み(一方的な)になってしまい、悪態をついたり応援したりしていた。山形ナンバーのわナンバーの小型車の、初心者マークの女の子二人連れのことをみんなで応援していた。彼女たちは無事に帰れたかな。返却時間に間に合ったかな。

 

家にたどり着いたときにはすっかり疲弊していてとにかく足を延ばして横になってそのまま眠った。あれからそこそこ経ったけれど、そのときに使ったイスやテーブルやグリルやなんかはまだそのまま仕舞わずに転がしてある。ただなんとなく面倒くさくてそのままにしている。馬刺しやチーズケーキは美味しく食べたけれど、道の駅で買ったハムとベーコンが手付かずのまま残っている。そろそろ賞味期限になる。