bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

届を書いたときのこと

月曜日。
今年初のゲリラ豪雨

なんだかわからないけど昼過ぎくらいからやたらめったら落ち込んでしまって、急に30年強の人生を振り返ったりしてしまって、ほんで普段ぜんぜんしない後悔なんぞをしたりして、踏んづけられて潰れたおにぎりみたいな惨めな気持ちで午後を過ごした。

いまでも基本的にそんな気持ちなので、本当は呪詛を書き連ねたいのだけれど、そんなもん書いたら書いただけ嫌な気持ちになるだけなので、代わりにきのう友達と話してて思い出した話を書く。婚姻届の話。

もうずいぶん昔、僕がまだ20代半ばのころのこと。
ある女の子と出会って、完全に意気投合して、付き合うことになって。付き合って二日目くらい、夜中にふたりで歩いていたら区役所の前を通って。
ねえ、夜間の窓口にいったら婚姻届もらえるのかな、なんて話になって、とりあえずね、もらうだけもらってみようか、ってキャッキャしながら窓口にいき、ふたりとも真っ赤になりながら届をもらった。コンビニでボールペンを買って、居酒屋に入り、ビールを頼んで、テーブルに届を広げた。

彼女の書く字を見るのはそのときが初めてだった。派手なファッション、大きな眼と厚い唇、勢い任せの突拍子もない行動、満面の笑み。彼女のイメージはだいたいそんな感じだったけれど、初めて見る彼女の字は、綺麗な、端正な字だった。学級委員長の女の子が書くような字。

ふたりで書けるところを記入して、残るは保証人の欄だけになった。どうしようか、どうする?もうさあ、よくない?書いちゃってさ、出しちゃわない?誰か来れるひといるでしょ、寝ようとしててもさ、婚姻届の保証人欄に名前書いてほしいって言ったら、絶対に来るでしょ。そう言って、お互いの友達にメールを送った。つきあって二日で入籍なんてあまりにも馬鹿だ、もちろんそう思った。でもそのとき僕らはどうしようもなく馬鹿だったし、どうせこのひととはずっと一緒に決まってるから、届を出すのなんていつだって構わない、そんなふうに思っていた。まったくねえ、若者って馬鹿だよね。

遅くに来てくれた友達は完全に面白がりながら保証人欄を埋めてくれた。すべての空欄が埋まり、あとは窓口に提出すれば僕らは晴れて夫婦になる。そこで友達が言った。戸籍謄本ないと受理されないよ、用意してあるの?
あ、そうなの?そうなんだ、あー、きょうは持ち合わせがないや。

その日はそのまま朝まで飲んだ。
記入済みの婚姻届は彼女が持ち帰った。
それからほどなくして、僕らは一緒に住むようになった。
何度か引っ越しをしながら、ふたりの生活は10年間続いた。
その間、婚姻届は厳正に保管され続け、最後まで提出されることはなかった。

あの紙はいまどこにあるのだろう。
勿体無いことしたな、写真くらい残しておけばよかった。
いい記念になったのにな。


昔のことを思い出しながら書いていたら、他のことが頭の中から消えた気がする。
なんかすっきりした。

キッチンではさっき仕込んだマトンカレーが煮込まれている。
骨付きマトンはもう柔らかくなっただろうか。
食べおわったら横になって、少し本でも読もうかな。
早めに眠気が来るといいな。
しっかり食べて、しっかり寝たい。
夏の暑さに負けないように。