bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

シリアルキラー展

木曜日。
繁忙期もひと山越えた。

珍しく外出ノーリターンをキメて、5時に銀座で身体が空いた。よし、これはもう行くしかないでしょ、というわけで前々から行きたかった「シリアルキラー展」@ヴァニラ画廊へ。

土日は行列一時間待ち、と聞いて尻込みしていたけれど、平日だからかすんなり入れた。入れはしたものの、場内には列が出来ていた。あまり広くない二部屋の展示スペース、その壁にぎっちりと飾られた絵画や手紙の数々。それから顔を近づけないと読めないくらい小さな文字で書かれた、シリアルキラーの解説。お客さんはみんな壁に貼り付いてじっくり文字を読むので、壁沿いに出来た列がなかなか進まない。逆に言えば、じっくりと鑑賞できたとも言える。

きょうのその時間のお客さんではサラリーマンはたぶん自分ひとり。尖った感じの若いカップル、全力で文化系の同性の二人連れ、それから母子みたいな人もいたな。ひとりで来てるお客さんは少ないみたいだった。なんとなく、ひとりは怖いのだろうか。

テッド・バンディ、チャールズ・マンソンジョン・ウェイン・ゲイシー、リチャード・ラミレス、ヘンリー・リー・ルーカスとオーティス・トゥール、デイヴィッド・バーコウィッツ、エド・ゲインにアイリーン・ウォーノス、ユナボマーやジャック・ケヴォーキアンのもあったな。手紙やイラスト、写真に手作りのアクセサリー、手形、時計、エド・ゲインがずっと持っていた聖書なんてのもあった。かの有名なゲイシーのピエロの絵は7、8点はあったかな。ゲイシーが描いた「it」のペニーワイズの絵もあった。映画を見て描いたのか、絵をもとにキャラクターが作られたのか。どっちかな。

俺はシリアルキラーを題材にした本や映画が好きだ。「FBI心理分析官」や「消された一家」、映画の「モンスター」なんかは特に惹かれる。何故なのか、と考えると、彼らが怖くて、ユーモラスで、悲しくて、どこか自分のようだと感じるからだ。人を殺したい欲求が自分にもある、と言いたいのではないよ。彼らが抱える欠落の部分に引き寄せられてしまう。自分も彼らのような人生を歩いていたら、彼らのようになっていたかもしれない、と思う。俺は幸いにも、幼少期の性的虐待も、同性愛傾向を抑圧されることも、母親による支配と虐待も、思春期のインポテンツも、倒錯した性的衝動を刷り込まれることも、すべて経験することなく大人になった。ひとを殺さない側の人間になった。ラッキーだった。自分と彼らを隔てる壁はとても薄い、けれど確かに壁はある。

ひとつひとつの作品がどうこうというより、体験が強烈だった。地下二階の窓のない部屋に、シリアルキラーの手になるものが並べられている。少し過剰な雰囲気のする観客が、それを食い入るように眺めている。技術的には稚拙な、陰惨な雰囲気の絵画に描かれた、たくさんの顔がこちらを見ている。深淵を覗いているのか、覗きこまれているのか、それとも俺がいるいまこここそが深淵なのか、わからなくなる。人間を「簡単に殺せる存在」として眺める目線をうっかり体得しそうになる。壁にかけられたヘンリー・リー・ルーカスの自画像が自分の顔のように思えてくる。目眩がする。

会場を出て、地下から地上へ続く階段を登ると、全身が強張っていることに気がついた。山登りをしたかのように太ももと膝がダルかった。会場にいたのは一時間半くらいだっただろうか。外はまだ明るく、銀座らしい正しい身なりの人たちが活発に歩いていた。ほんとうはこのあと本屋に行って、高円寺で妄想インドカレーを食べようと思っていたのだけれど、疲れてそれどころではなくなってしまった。妄想インドカレー、食べたかったな。またそのうち行こう。それともこのまま行かないでいて、どんなカレーなのか妄想してるほうが正しいのだろうか。妄想で作られたインドカレーについての妄想。

最寄り駅まで帰ってきて、まだ脚がふわふわしていて、安心したくて松屋に入る。カレ牛とビールの食券を買う。Twitterを見ながら、ルーと肉でビールを飲む。何度か見かけた初老の店員さんがひとりで店を回している。ルーと肉をビールで消費したので、残ったごはんに紅しょうがをのせて食べる。冷房が強いので温かいお茶を頼む。大丈夫。これは日常だ。これは日常だ。大丈夫。これは日常だ。

店を出てから気がついたけれど、松屋でビールを飲んだのは初めてだった。ぜんぜん日常じゃなかった。少し笑った。

それから、家に帰って、8時くらいに眠って、1時に起きて、いまに至る。

明日は金曜日。1日だから映画の日だ。何を見に行こうかな。イーライ・ロスの新作も明日までだし、「ズートピア」も「クリーピー」も見たい。本も買いに行きたいな。あとカレーも作ろう。

やりたいことをたくさんやろう。
なんとなく明るいほうに進もう。
そうしないと簡単に引っ張られてしまうから。
そんでめちゃくちゃ眠ってやろう。

とりあえず今日も寝る。
おやすみなさい。