痴女の誕生(追記あり)
安田理央「痴女の誕生」を読了。
語りたいことがたくさんあります、夜中なので手の動くまま勢いでバーッと書いてみます。
たぶん後で手直しする。
まず、この本、「AV近現代史」として一級品の資料になってます。
巻末の「アダルトメディア年表」だけでも買う価値がある。
俺は若いころあまりAVを見ておらず、各種の文献で断片的な情報ばかり得ていたので、まとまった情報を得られて大変ありがたかったです。
情報量だけで値段分の価値はあります。
ただ、物足りないところもあって。
「アダルトメディア全般に渡って言及」と後書きに書いてあるのですが、基本となる視点はあくまで「AV業界の内側から見た風景」なんですよ。
はっきり言うと、「オタクカルチャー」の目線が弱い。弱すぎる。
例えば。
第四章「痴女は女が作った」の中で、「乱丸」というメーカーの話が出てきます。女優が白目を向きながら「ギモジイイ」「ングング」と奇声を発して悶える、そういう作風のメーカーさんです。
これを解説するなら「みさくら語」「アヘ顔」あたりの同人文化の影響は無視できないんじゃないかな、と思うんですが、本の中では一切言及がないんです。
最終章「男の娘」で少しエロマンガは出てくるけど、「奴隷戦士マヤ」とかなんだよ、古すぎる…
男の娘のエロ同人なんて山ほどあるのに…
今を遡ること10年前、「ぼくのぴこ」がいかに多くのオタクのセックス・アイデンティティを混乱させたか、なんて絶対に面白いのに…
「オタクカルチャーでどのように性的消費の流行があったか」は、アダルトメディアの変遷を語る上で、とても重要な要素だと思うのですよ。
AVユーザーは、AVだけを見ているのではないのではないか。
とすれば、それ等はどう影響しあっているのか。
その視点があれば、さらに面白くなったはずなんです。
なにしろ「属性」をテーマにまとめた本なんですから。
属性といえばアニメとエロゲー、そう相場は決まっとる。
もうこっから先は感想でも何でもなく夜中の勢いで暴論書いてるだけなんですが、「オタクカルチャー」って補助線があると、「なぜ痴女なのか、黒ギャルなのか、ロリコン美少女なのか」って問いに回答するのが楽になるんじゃないか、と思うんです。
オタク、というより「非モテ」の男性はですね、まともな大人の女性が怖いんです。
学校生活、散々バカにされて過ごしてますから。
怖いし、自分なんて絶対に受け入れてもらえないと思ってます。
だから、「自分より弱い存在=少女」や「上から目線で自分を弄んでくれる存在=痴女、黒ギャル、熟女」が好きなんですね。
そういう性的関係じゃないと、リアリティを感じられない。
「脅迫して寝とる」なんてのもそーすね、正攻法じゃ無理だからそういうファンタジーに向かうんですね。
なので、ジャンルとしては複数に別れていても、ユーザーの求める根っこのとこは同じだったりするんじゃないかなー、と思って読んでました。
ここまでデカい主語つかって暴論吐いてますが、「僕はこんなふうに思ってます」ってことでご理解とご容赦を賜りたく存じます。
あ、あともうひとつ、経済面からの分析も欲しかった。
例えば、「風俗やAVにおいて熟女というジャンルが誕生した」のは何故だったのでしょうか?
経済状況が悪化して主婦が働き口を求めた?
実は5-10年前に若い風俗嬢(AV女優)が増加していて、ベテラン風俗嬢(AV女優)の雇用の受け皿が必要だった?
「企画が通った」以外に何か理由があるんじゃないか、そんなふうに思うのですよ。
後半勢いで書きましたが、「オタクカルチャー」「それぞれのジャンルごとのユーザー属性の違い」「経済や雇用なんかの構造」なんかが分析の視点にあるともっと面白かったのではないでしょうか。
でもそうするといまの三倍くらいの厚さになってたでしょうし、贅沢言い過ぎですかね。
あと僕は現役のオタクではないので、オタク知識に間違いとかあったらごめんなさい。
先に謝っとく。
というわけで感想をまとめると、「AVについての情報量は山盛りも山盛り、だけど他のメディアとの関連性や時代性など分析はあんまりされてないので、そこは各自飲みながら持論をぶつけ合いましょう!たぶんすげー盛り上がるぞ!」という感じです。
なので興味のある方はぜひお読みいただいて、やいのやいの言いましょう。
正直これ書いただけじゃ全然語りたりない。
俺、「痴女は本当に女が作ったのか」と「ananのSEX特集」と「女性向けAV」の話だけでもあと一時間は喋れるぞ、たぶん。
追記
@Ujirou ありがとうございます。2次元周辺は意図的にスルーしました。この辺りは永山薫さんの「エロマンガスタディーズ」を併読していただければよいかなということで。その永山さんと2次元と3次元の相互影響についての対談が来月、WEBスナイパーで公開される予定です。ぜひこちらも。
— 安田理央@新刊「痴女の誕生」発売中 (@rioysd) 2016年4月18日
@Ujirou オタク周辺雑誌の編集やライターはやってたんですけど、あまり向いてなくて……(笑)あの辺に関しては、生半可な知識で書くのは厳しいだろうなと思って見送りました。でも永山さんとの対談が面白かったので、2次元と3次元の相互影響についても踏み込んでみたくなってます。
— 安田理央@新刊「痴女の誕生」発売中 (@rioysd) 2016年4月18日
どうしても偉そうな物言いになってしまってほんとに恐縮なのですが、「生半可な知識では書けない」という言葉、誠実だと思います。
専門分野をここまで詳細に書ける方だからこそ、自分の満足いかない水準の知識でモノを書く訳にはいかない、と判断されたのでしょう。
そういう方の書くものは信頼できると思います。
というわけで、WEBスナイパーに掲載されるという対談、楽しみにしております。
安田さん、ありがとうございました!