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bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

ジョバンニとカムパネルラ

ジョバンニとカムパネルラは、銀河鉄道の座席に、きちんと向かいあって座っていました。

ジョバンニは尋ねました。
「カムパネルラ、さっき真っ赤に燃える星があったねえ。あれは何の星だろうか」
「ジョバンニ、あれはさそりの星だよ」
カムパネルラは答えました。

ジョバンニは尋ねました。
「カムパネルラ、さっき真っ青に光る星があったねえ、あれは何の星だろうか」
「ジョバンニ、あれはプレヤデスの星だよ」
カムパネルラは答えました。

ジョバンニは尋ねました。
「カムパネルラ、さっきピーコさんにソックリのお洒落なおじさんがいたねえ。あれは誰だろうか」
「ジョバンニ、ピーコさんにソックリのお洒落なおじさんなら、それはピーコさん本人なんだろうねえ。」
なに言い出すんだこいつ、と思いながらカムパネルラは答えました。

「うん、僕そう思ってね、窓から身を乗り出して、目を凝らして、よく見てみたんだ。」
「ピーコさんに違いなかったろう?」
「そうしたら、ソックリなんだけれど、ほんの少し違うんだ。カムパネルラ、もしかしたらあれは、ピーコさんの双子の兄弟かもしれないよ。僕、父さんに聞いたんだ、ピーコさんには双子の兄弟がいなさるって」
マジかよなんで知らねえんだよコイツ。
カムパネルラはイラッとしました。
「ジョバンニ、ピーコさんの双子の兄弟とは、おすぎさんのことだよ。君は知らないのだろうけれど、おすぎさんはピーコさんに似ていないし、まったくお洒落でもないんだ」
「カムパネルラ、じゃああれは誰だったのだろうねえ」
「ジョバンニ、僕そんなことどうでもいい、僕ほんとうに興味がないよ」
カムパネルラはとうとう口に出して言いました。

客車に気まずい沈黙が漂い、ガタンゴトンという車輪の音がやたら大きく聞こえました。
カムパネルラはとりあえず寝たふりをしました。

まさか。
カムパネルラは思います。
まさかジョバンニが、一緒にいるあいだ常に話しかけてくるタイプだとは思わなかった。
白鳥の停車場くらいまでは我慢できた。
旅でテンションあがってるんだろうなー、くらいで。
でももう限界だ。
こんなことなら箱根一泊くらいの近場にしとけばよかった。
銀河鉄道なんて、乗るんじゃなかった。

「ねえカムパネルラ、終点まではあとどれだけあるのだろうか」
お構いなしにジョバンニが聞いてきます。
こっちが教えてほしいくらいだ、そう思いながらカムパネルラは寝たふりを続けます。

あとどのくらいで終点なのか。
そもそも終点はどこなのか。
銀河鉄道にのってから、いったいどれだけの時間が経ったのか。
それはもはやカムパネルラにもわからないのでした。