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bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

アンダーグラウンド

土曜日。
過去数十年で最強の寒波が襲来する日。

恵比寿ガーデンシネマにて、クストリッツァ監督「アンダーグラウンド」を見てきた。
良かった。
映画館で、爆音で、集中してみれてとても良かった。

終わらない熱狂と爆音と乱痴気騒ぎ。
愛と欲と誤解と嘘がこんがらかり、ブラスバンドはホーンを鳴らし、状況はどうしようもなく混乱していく。
その様を、三時間かけてたっぷりと見せていく。

街は崩落し、親友は裏切る。
母が死に、息子は溺れる。
花嫁は沈み、弟は兄を殺める。
愛する女を知らずに殺す。
すべての絆が、致命的に失われる。

ラストシーン。
失われたもののすべてが取り戻される。
親密さと、友情と、愛と、青きドナウ。
あるべきだったはずのすべてがそこにある。
男の目線が急にカメラを捉え、語る。
「苦痛と悲しみと喜びなしでは、子供たちにこう伝えられない。
 『むかし、あるところに国があった』、と」

ここで気づく。
この映画のすべてが、ユーゴスラヴィアそのものであったということに。
どうしようもなくこんがらかった状況で、絆と愛とが引き裂かれ、隣人同士が殺し合う、それが現実にユーゴスラヴィアという国で起こったことなのだ。
そして、ユーゴスラヴィアは失われ、もう二度と帰らないのだと。

この映画のすべてのシーンが美しいのは、登場人物がみな魅力的なのは。
それが失われた祖国への、故郷への愛の表現だからだ。

そのことに気がついてから、涙が止まらなかった。
明かりがついたら、泣いてるのは周りでは自分だけで、やっぱり少し恥ずかしくて、ぎゅっと目を閉じて涙をこらえた。

外に出たら雪景色だったらいいなあ、と思ったけれど、実際は申し訳程度に小雨が落ちるだけだった。
寒さも中途半端で、肌を指すようなというほど寒いわけでもなく、なんだか生ぬるい水風呂に浸かっているような、すわりの悪い気分だった。

そのまま電車で新宿に出て、髪を切り、雑誌を何冊か買って、草枕でカレーを食べて帰った。

結局、雪は降らなかった。
最強の寒波は最強ぶりを見せることなくどこかへ消えてしまった。