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bronson69の日記

いつか読み返して楽しむための文章。

空洞です

朝から内臓が重だるい。
首の後ろがチリチリする。
頭蓋骨の裏側に、べったりとこびりつく感触がある。
眼はシパシパと乾燥し、足どりは水中を歩くよう。
出勤してからずっと、集中力のいらない仕事をチンタラ進めて誤魔化している。

不快感の半分は、昨日の酒によるものだ。
引っ越してからというもの、飲酒の回数・分量ともに、格段に増えている。
適量でやめる、ということができない。
明日に響くと分かっていても、駄目になるまで飲んでしまう。
でも、けして不快な酒ではない。
むしろ楽しい。
飲んでいるときは本当に楽しい。
忘れたいから、ではなく、楽しいから飲んでいる。

昨日の酒もよい酒だった。
友人と彼女とその友達と、タイ料理屋でビールとワインを飲んだ。
現地風の味付けに定評のある店だった。
われわれ4人のうち、辛いものに耐性があったのはひとりだけ。
辛くないメニューはありますか、比較的とかじゃなく、絶対的に辛くないやつ。
そう言って出てきたイカの炒めものには、見てわかるサイズの唐辛子が散りばめられていた。
唐辛子をかきわけかきわけ、柔らかいヒメイカを味わう。
一口目には濃厚な旨味が、二口目には強い辛味が押し寄せる。
冷たいワインを流し込む。
カプサイシンを摂取するにつれ、ひたいには玉の汗が光る。

酔っぱらってテンション上がってバーッと喋って、外に出ると冷たい外気が心地よい。
夜風にあたって家路を急ぎ、帰る途中の友人宅でもう一杯だけひっかける。
さらっと飲んだら今度こそ、本当の本当に帰宅。
ふらふらふらっと自宅に向かい、ドアを明け、手探りで電気を点ける。

ここまで。
多幸感に包まれていられる時間は、ここまでで終わり。

ひとりの部屋には、現実しかなかった。
クソみたいなリアリズムが満ちている。
ひとりになった中年男の現実。
小ぎれいな部屋にただよう薄っぺらい空気。
なんの進歩も変化もなく、ただ老いていく、そのためだけの空間。

部屋を探し、家具を買い、レイアウトして。
そうして出来上がったのは、自分を埋葬する棺桶だった。

どこかに死の匂いを感じる。
怖くなって布団に潜る。
この部屋には熱量が必要だ。
酔った頭でそんなことを思う。
熱量がなければ、俺はどんどん薄くなる。
どんどん薄く薄くなって、この部屋の空気の中で、拡散して消えてしまうだろう。
熱量が必要だ。
熱量とは、愛から産まれる。
愛されることではない、愛することが熱量を産む。

静寂の中に消えてしまうか。
もう一度、愛することを取り戻すか。
どちらかしかないのだ。

どうせならこのまま死んだらいいのにな。
眠りについて、目が覚めなければいいのにな。
子どものころから何度願ったかわからない願い。
ぼんやりとそんなことを思いながら、俺は眠りに落ちていった。