どですかでん
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
六ちゃんは電車が大好き。
いつも電車の真似をして走り回っている。
どですかでん、とは電車の音だ。
ガタンゴトン、が、六ちゃんにはどですかでん、に聞こえているらしい。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
六ちゃんはお母さんと二人で暮らしている。
お母さんはしばらく前から風邪で寝込んでいる。
実は風邪だけでなく、過労がたまって心臓も弱っていたのだけれど、六ちゃんにはそれを知る由もなかった。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
六ちゃんの本当の名前は六ちゃんじゃない。
もっとちゃんとした名前があるのだけれど、お前はいつまでも6歳のままなんだね、といって、お母さんは六ちゃんを六ちゃんと呼んでいた。
お母さんの他に、六ちゃんの名前を呼ぶひとは誰もいなかった。
六ちゃんが生まれてから、今年で44年が経つ。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
六ちゃん電車はきょうも走る。
電車だから、いつも決まった時間に走る。
寝てるお母さんの周りをぐるぐると回る。
お母さんはいつも、ホコリが立つからやめておくれ、もう寝る時間だよ、といって六ちゃん電車をストップさせた。
でもお母さんは何も言わない。
もう4日も前から、何も言わない。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
どっですっかでん。
おなかがすいたな、と六ちゃんは思う。
お母さんまだかな、まだ起きないのかな。
何かしたほうがいいのかな、と思うけど、六ちゃんは6歳だったし、電車だったから、何も考えないで走りつづける。
どっですっかでん。どっですっかでん。
どっですっかでん。どっですっかでん。
上の部屋の足音が毎日決まった時間にうるさくてたまらない。
腹たてるのも馬鹿らしいから腹がたたないような事情を考えてみた。
ただただ悲しくなった。
何してんだろ俺。